ウォール街はトークン化株式の導入と24時間取引の実現に向けて加速している一方で、多くの機関投資家は流動性や資金調達に対するリスクを懸念し、積極的な取引に慎重な姿勢を示している。
トークン化とは、株式などの伝統的な資産をブロックチェーン上に表現する手法を指し、数十年来の市場インフラを近代化し、取引と決済の即時化や24時間取引の可能性をもたらすとされる。
この構想はここ数カ月で勢いを増しており、ニューヨーク証券取引所を運営するICEやナスダックも、ネイティブ暗号資産取引所との大型提携を発表し、トークン化株式の市場導入を目指している。
しかし、多くの機関投資家にとっては、流動性や資金面の課題、そして日々の市場運営に関する実務的な懸念が残る。
TD Securities米国株式市場構造部門バイスプレジデントのリード・ノック氏は「機関投資家は一般的に即時決済を好まない」と指摘する。同氏によると、即時決済技術は市場のバックエンド効率化に寄与するものの、新たな取引決済摩擦を生む可能性があるという。
現状の米国株式市場では、取引は執行から1営業日後に決済されるT+1決済が採用されている。この遅延によりブローカーやトレーディング会社はポジションを相殺し、日中に資金管理が可能だが、即時決済では取引前に資金を全額用意する必要がある。
ノック氏は「誰も事前に全額の資金を積みたくない」と述べ、即時決済が標準となれば取引会社は1日を通じて資金手当をしなければならずコスト増加や流動性低下のリスクが生じると指摘する。
特に市場終了時の大量取引が同時に発生する局面では、バランスシートの制約から取引コストが上昇し、流動性の時間的偏りが拡大する可能性がある。
一方で、個人投資家はトークン化市場の利点をより早期に受け入れる可能性がある。デジタルウォレットで株式を直接保有でき、従来の取引時間外にも取引可能といった利点は、むしろ個人投資家向けとされている。
現在、米国の株式取引量の約20%を個人投資家が占めており、銘柄によっては日次取引の50%以上を占めることもある。なかでも「ミーム株」では個人投資家の参加比率が90%を超えたこともある。
ノック氏は、トークン化市場は特に米国市場が閉じている時間帯に株式へのアクセスを望む海外個人投資家にとって魅力的になると述べる。彼らは伝統的なブローカーの口座開設要件を回避し、暗号資産プラットフォームで口座を開くほうが容易な場合があるためだ。
時間の経過とともにトークン化市場に流動性が集まれば、機関投資家も参入せざるを得なくなる可能性がある。ノック氏は「個人投資家の流動性が十分な規模に達すれば、機関投資家の参加拒否は不可能になる」と語った。
ただし、この移行にはリスクも伴う。懸念されるのは同一株式の複数バージョンが異なるブロックチェーンやトークン化プラットフォーム上に存在し、市場の分断を招くことだ。これにより米国株式市場の透明性や価格発見機能が損なわれる恐れがある。
ノック氏は「通常、ほとんどの企業の株式は一種類のみ」としたうえで、「複数バージョンが異なる権利や流動性を伴い存在すると、投資家の保有内容に混乱が生じかねない」と指摘している。
こうした懸念があるにもかかわらず、業界の動きは加速を続けている。取引所各社は取引時間の延長を検討し、将来的にはほぼ24時間の取引体制を提案するケースもある。
トークン化はこうした変化の一環となる可能性があり、インフラの近代化とともに投資家の株式へのアクセス方法を徐々に変えていくかもしれない。ただ現段階では、主に個人投資家を中心に進展し、機関投資家は慎重なままである。
